長年自動車界のみならず、日本の代表的企業の一つとして君臨してきたトヨタ自動車。今日は、そんなトヨタの秘密のひとつを解き明かしていきたいと思います。
トヨタは今でもベンチャースピリット
日本企業の中には大きくなるにつれ「大企業病」と呼ばれるような事態に陥ることもある中、未だ革新を止めない勢いを持っている点で、トヨタ自動車は他の企業とは決定的に異なると言えるでしょう。
しかし、歴史もあり大企業でもありながらも、トヨタ自動車の社風にはいわゆる「日本らしさ」は見られません。
むしろ、ベンチャースピリットや欧米でよく見られるようなフラットなコミュニケーションの取り方など、大企業でも革新を続けられるヒントが根付いていることが分かります。
今回は元トヨタ自動車勤務を経験した著者が語る「トヨタの会議は30分」という一冊をご紹介したいと思います。
上司部下にかかわらず、ビジネスパーソンであれば一度は目を通しておいてほしいエッセンスが満載です。
第一章:時短会議術
タイトルにもある通り「30分会議」にこだわるトヨタがどのようにしてそれを実現しているのかが第一章で述べられています。
具体的な方法がいくつも挙げられているので、追って説明したいと思います。
会議時間について
会議時間と言えば1時間に設定している企業も多いと思います。
しかし、トヨタでは30分会議へのこだわりを強く持っているそうです。
1時間会議をしている企業と比べると、余剰の30分は他の仕事に割くことができるのです。
年間あたりで考えるだけで相当な時間になることがわかるでしょう。
限りある時間を有効に使い、より生産性の高い仕事に充当するためトヨタは「30分会議」にこだわるのです。
では、どのようにして「30分会議」を実現するのか。方法は4つあります。
①延長の可能性
逆説的のようにも聞こえますが、30分で終わらなかった時のことを考え、立て続けに会議を入れることはしません。
30分会議の後の30分は空白の時間を作っておくのです。
30分で終わらせることを基本としながらも、臨機応変に対応できる準備もしているのです。
②事前共有
会議に入ってからではなく、会議前にアジェンダを共有しておきます。
その際に会議参加者がある程度想像できるような、質の高い情報共有を行います。
③参加者側の準備
②の事前共有を見た上で、参加者側も事前にリサーチをしておきます。
関係する情報や書類を集め、会議でどのような発言をするのかイメージをしておきます。
④次回会議
会議の最後に次回の会議で何をするのかを決定しておきます。
同じメンバーで会議をする場合、次回の内容を決めておくだけで次回の会議をスムーズに始めることができます。
無駄の省略
トヨタでは「定例会議」と「上司の付き添い」は無駄だとされており、認められていません。
定例会議で何も話し合うことがなければ無駄な時間になってしまうからです。
会議は必要な時だけ行われています。
また、同じチームの上司と部下が同じ会議に参加することもありません。
担当者が一人いれば情報を共有したり物事を決定したりするのは十分だからです。
上司は部下に任せることにより部下が成長し、上司も自分自身のマネジメントの仕事に時間を費やすことができます。
部下も上司がいない分、責任感と緊張感を持って会議に臨むことができるのです。
議事録について
会議に付き物なのが「議事録」ですが、多くの企業が会議内容を改めて文字に書き起こして共有しているのではないでしょうか?
会議後の議事録をまとめる時間はトヨタでは無駄だとみなされており、議事録を作っていれば「暇なの?」とさえ思われてしまうそうです。
トヨタでは、会議の際に使ったホワイトボードの内容をそのまま議事録として使用したり、スマホのカメラで撮影したり、ホワイトボードをそのままデータ化できるものを使用したりしているそうです。
議事録の本来の目的は会議の内容を後で振り返るためにあるので、きれいに文字に起こす必要はないのです。
会議の入り方
会議を始めるにあたり、進行役は最初の5秒で参加者の様子を観察します。
最初に触れた通り、トヨタでは次回の会議で何を話し合うのか決めているので、基本的には前置きもなく本題に入れるという前提に立っています。
そこで、進行役は参加者を見渡し、全員がスタートラインに立っていることを見極めた上で会議を始めるそうです。
一人でも前回の会議内容や今回の会議内容に不安を覚えていそうな表情をしている人がいれば、
「少しおさらいしますか?」
と声掛けをし、軽く振り返りを行うことで、気持ちよく会議を始めることができるのです。
この最初の5秒観察の感覚を研ぎ澄ますことは、社内の会議の時以外にも活きてきます。
社外の人と会う時も相手がどのようなコンディションなのかを察知することができるようになり、より交渉が上手くなってくるのです。
メモなし
会議に参加したことがある人は誰しもメモを取ったことがあるのではないでしょうか。
しかし、トヨタではメモは推奨されていません。
頭をフル回転して会議に参加していれば、メモを取らずとも内容が記憶に残るからです。
確かに会議でメモを取ったとしても、見返すことがほとんどなかった、見返してもどのようなことを意図してメモしたのかが分からなくなってしまった、という経験がある人も多いと思います。
メモを取ることに気を取られるよりも、目の前の人が話している内容に全集中力を注いだ方が、その後の仕事の生産性も高まるというのがトヨタの考え方です。
第二章:コミュニケーション術
30分で会議を完結させるために重要になってくるコミュニケーション術について2点挙げられています。
1分資料
重要な話を1分で伝えるにはどうしたら良いでしょうか?
トヨタでの正解は「紙の資料」です。
言葉で伝えるには1分は少なすぎますが、完結に内容をまとめた紙であれば1分で十分内容を伝えることができます。
そのため、トヨタでは上司に対しても「1分いいですか?」と声をかけて即決してもらうというスタイルが定着しているそうです。
1分資料を作るためには
- 最初に何に関する話なのかを書く
- どのような回答や判断が欲しいのかを書く
- 結論→論拠→(必要であれば)補足の順に書く
というフォーマットを採用しています。
一定のフォーマットに従って資料を作ることで、作り手・読み手の両者にとっても時間を短縮することが可能なのです。
プレゼンの仕方
会議においてプレゼンテーションは欠かせません。
ただ、プレゼンを苦手としている人も多いでしょう。
そのような人に意識してほしいことも本著では述べられています。
- 冒頭で何を話すのか、章立てを説明する→章立て通りに説明することで理解してもらいやすくなる
- 節目でおさらいと不明点の確認をする→細かく合意を得ることで、最終合意も得られやすくなる
- 専門用語を避ける
- 目線を安定させる→聞き手の顎や、聞き手の顔の奥にある壁に話しかけるイメージを持つ
- 穏やかな低い声で話す
以上に気をつけることで効果的なプレゼンテーションができるようになると述べられています。
第三章:本質思考
空気を読むというのは日本人の特徴の一つだと思います。
しかし、トヨタではある役員が、
空気を読む力があっても、あえて空気を読まない判断をする人こそが本当に空気を読める人
という発言をしたそうです。
つまり、空気を読んで言いたいことが言えない、それにより革新が生まれなくなっていくことより、恐れずに自分が正しいと思ったことを言える人こそが、事態を打破したり会社の成長につなげたりすることができる人材なのです。
会社のため、チームのためにも、あえて「言う」というスタンスを取り、同調するような空気を壊していくことの方が大事だというのがトヨタに根付いた文化だと言えるでしょう。もちろん、それと人間関係の摩擦は別です。良好な人間関係については、五章で詳しく見ていきます。
さらに、トヨタは「なぜ?」「定義は?」という問いを最低5回は繰り返します。
明確な答えはないからこそ、なぜ?と本質に追求することで、より納得の得られる答えに近づくことができるのです。
第四章:トヨタの教育
トヨタ自動車は車という、人の命を預かるものを作っています。
だからこそ、生産現場には決して妥協を許さない人たち(通称親父さん)が働いています。
命に代わるものはないので、生産現場の親父さんたちは嫌われても良いから厳しい指摘をしてきます。
上司の立場にある人は、相手に嫌われるかどうかを窺う以前に、間違っていることは間違っていると指摘する厳しさが求められているのです。
また、トヨタでは無理なことにダラダラと時間をかけない、ということも定着しています。
もちろんチャレンジする前に無理、と諦めてしまっては自分の成長のチャンスを逃してしまいます。
しかし、ある程度チャレンジしてみて自分に合わない、苦手分野である、と判断したら、より得意な人に頼るというのも生産性や効率性の観点からも合理的であるという考えなのです。
ある程度時間をかけることは重要ですが、その上でさらにチャレンジするのか、それとも他を頼りにするのかの判断をするべきだというのがトヨタの教育方針です。
第五章:良好な人間関係の構築
トヨタでは、このような人間関係の構築のための環境が用意されています。
飲み会の活用
トヨタは飲み会の多い会社だった、と著者は述べています。
本気で意見をぶつかり合わせていると人間関係にまでもつれ込んでしまいそうですが、それを避けるためにも飲み会を活用しているのだそうです。
オフの場でこそ本音が言えることも多いでしょう。
モヤモヤとした感じを引きずってしまうと修復までに時間がかかります。
わだかまりをすぐになくすためにも頻繁に飲み会を行っているのだと思います。
コロナ渦でなかなか対面での飲み会は行いづらくなっていると思いますが、オンライン飲み会や仕事抜きの電話など、オフだからこそできるコミュニケーションも人間関係を構築する上で大事にしているのです。
アンガーマネジメント
相手に対してイライラした時には、30分相手から離れることもトヨタの慣習の一つです。
今「アンガーマネジメント」というスキルも注目されているように、しばらく怒りの原因と距離を置くことで自分自身も冷静になれます。
そして、冷静になれば対応すべきことなのかそうでないのかの判断ができるようになります。
30分離れた上で重要でないと判断すれば無視すれば良いだけのこと、無視された相手もその分反省するようになるというのがトヨタの考え方です。
人間は理不尽な生き物
仕事をしていると、以前伝えたことを忘れられていたり、都合の良い風に解釈されてしまったりした経験がある人も多いと思います。
その時は「なぜ?」や「理不尽だなぁ」と感じてしまい、ストレスにもなりかねません。
しかし、トヨタではそもそも「人は理不尽な生き物だ」や「理不尽がない完璧な組織はない」という認識を持って仕事に取り組んでいるため、多少理不尽なことが起こっても想定内、と気持ちを切り替えられるのです。
心持ちのハードルをぐんと下げておくことで、何かあっても惑わされたりストレスに感じたりすることもなく、淡々と仕事に取り組めるというわけです。
第六章:人間力を高める配慮
トヨタで働く人は優秀な人が多いと思っている人もいるでしょう。
しかし、トヨタの中にいる人は自分たちのことを「凡人」だと感じているそうです。
ただ、仕事に一生懸命取り組むことで凡人であっても十分仕事のプロになれる、というのがトヨタの人の考え方なのです。
また、トヨタでは「縁」を大切にしています。毎日時間を無駄にせずに仕事に取り組むことで素晴らしい縁に巡り合うことができるという教えだそうです。
そして、感謝の気持ちを忘れずに生きていくことこそ、ビジネスパーソンとしても、一個人としても人間力を高めることにつながっていくと考えられています。
おわりに
以上「トヨタの会議は30分」についてご紹介してきました。
章立てもはっきりしており、振り返りやすい構成になっています。
気になった方はぜひ一冊手元に置いていただき、迷った際の道標としてみてはいかがでしょうか。