今回は2021年10月末とまだ出版されて間もないものの、大注目を集めているLIFE SHIFT2:100年時代の行動戦略という一冊をご紹介したいと思います。
人生100年時代の到来
こちらは2016年に出版されたLIFE SHIFT:100年時代の人生戦略の続編となっています。
コロナの感染拡大により、私たちの生活は否が応でも変化を迫られているのは皆さんが実感していることでしょう。
このLIFE SHFT2では、そのような変化の中で私たちがいかに生きていくべきなのかというヒントを示してくれています。
著者紹介
著者はロンドン・ビジネススクール経済学教授のアンドリュー・スコット氏です。
彼は人の世界を再構築するような深層変化の研究や、個人や社会がさらに繁栄するための方法を研究対象としており、これまでにも様々な賞を受賞している研究者です。
また、共同著者であるリンダ・グラットン氏は世界のビジネス思想家トップ15にもランクインするなど、世界でも影響力のある一人として知られています。
身近なところだと、2018年に安倍晋三元首相のもとで設立された「人生100年時代構想会議」のメンバーにも任命されており、安倍元首相の提言にもリンダ氏の思想が色濃く反映していることが、本著を読むとよく分かるでしょう。
テクノロジーの進歩と長寿化の関係性について
では、早速前作についても簡単に触れながら、今回の続編でフォーカスされている「テクノロジーの進化」ならびに「長寿化」について詳しく見ていきたいと思います。
前作の人生戦略編では、長寿化が進んでいることでどのような課題が浮かび上がっているのかということや、私達の親世代が生きてきたような道筋を辿るだけでは順風満帆な人生を歩めないということを示しています。
例えば、年功序列の考え方や終身雇用制度などが今の流れとは合っていないことは容易に理解できるでしょう。このように、現代を生きる私たちにとっては親世代のやり方を踏襲するのではなく、新たな生き方を模索する必要性に迫られているのです。そして、今回の続編でその具体的なシフト方法について触れられているのです。
第1部(1,2章):人間の問題
第1部では、人工知能やロボット工学と人間の将来関係が論じられています。
平均寿命と健康について、また、高齢化の流れの中でいかに生きていくのかが語られています。
人工知能やロボット等、テクノロジーの進化は非常に早いと言われています。
より詳しく説明すれば、4つの法則があり(ムーアの法則、ギルダーの法則、メトカーフの法則、ヴァリアンの法則)、それらは相互に影響し合って成長していき、利用価値も相乗効果をもたらしながら高まっていくことが分かっているのです。そのため、私たちの仕事もいずれはテクノロジーに取って代わられることは想像に難くないのです。
加えて、人間の平均寿命は時代の変化とともにどんどん伸びています。
先進国で生まれた子供の半数が100歳以上生きる可能性も示唆されていたり、日本人女性も10年間で1.5年寿命が伸びるペースであることなどが紹介されていたりします。
長生きできて嬉しいと感じる人もいるでしょうが、他方で長寿化には下記のようなリスクが伴うことも事実で、
- 老後資金の枯渇
- 老後の再就職に際してスキルが追いつかないこと
- 医療費や年金の増大で財政悪化
長寿化をきちんと認識し、相応の対策をしなければ明るい社会の未来を描けなくなる可能性もあるのです。
そこで、本著では明るい未来を築くため、テクノロジーの進化や長寿化に際して何をすべきなのかが具体的に語られています。
例えば上記のリスクに対して示されている方法を紹介しましょう。
老後資金の枯渇→長く働く
老後資金の枯渇という課題に対する解はずばり、長く働くことです。
就業期間が伸びれば生涯年収が増えることは明白でしょう。
ただ、長く働くためには相応のスキルが必要です。
新卒の就職活動などでは「〇〇学部で××を勉強していました」というようなことをアピールする人もいるでしょう。
しかし、老後の再就職となれば学生の頃勉強していた知識は古いものとなってしまいます。
常に新しい知識を身に着けることが、長く働くための重要なファクターになってくるのです。
ちなみに、高齢者が労働人口に流入することで、若い人から仕事が奪われてしまうと心配する人もいるかもしれません。
しかし、女性が労働市場に積極的に参入した時のことを鑑みると、むしろ所得が増えることにより消費が喚起され、より一層仕事が創出されるという好循環になると考えられます。
医療の提供→予防
年齢を重ねると病気のリスクは高まります。
しかし、年を取っても元気な人がいるのも事実です。
長生きしても健康を維持できるように、日々の習慣作りを意識することも大切です。
本著では健康的な食事や定期的な運動、毎日のデンタルケアなどが挙げられています。
お金をかけずに毎日の暮らしの中に健康習慣を取り入れることで、年を重ねても健康体を維持することが可能になると述べられています。
また、健康体の維持は上で触れたように長く働くためにも必要となってきます。
世代間格差の解消
また、本著では長寿化が進むことで、世代間格差が生まれてしまうことにも警鐘を鳴らしています。
最たる例は日本の年金制度でしょう。
年金は、昔は定年後の人口より若い人の方が多かったために不公平さを感じることなく成り立っていた制度です。
しかし、現在では逆転現象が起きてしまっているため、若い人が年金をいくら収めても、自分が定年後にもらえる金額は少なくなってしまう可能性が高いです。
そうなると、年金を支払うインセンティブもなくなり、一生懸命働くモチベーションにもつながりません。
このような世代間格差を解消しなければ、労働意欲の低下にもつながりかねないと警告しているのです。
上記のようなリスクに対する解決策も紹介されていますが、避けて通れぬ道として立ちはだかる長寿化とテクノロジーの進化に対して、根本的な解決方法として挙げられているのが「社会開拓者」になることです。
社会開拓者とは新しい社会や文化を創り出す人であり、
- 好奇心がある人
- 決断力がある人
- 勇気がある人
が社会開拓者になることができると述べられています。
変化に対しても従来のやり方を踏襲するのではなく、新しいやり方を模索できるような人、変化を楽しんだり、変化に対して柔軟に対応しようとできる人となったりすることこそが、これからの時代を上手く生きていくために必要な姿勢なのかもしれません。
第2部(3,4,5章):人間の発明
第2部では、「自分の人生の物語を作ること」について書かれています。
そのためにも自分の可能性を開花させること重要であり、自分の未来を予測することから始めるやり方が紹介されています。例えば
- 今の会社で出世する
- 転職や独立をする
- サラリーマンをやめて農業を営みながら田舎暮しをする等
この際に重要なのが、思考が狭くなっていないか、あらゆる未来を予測できているのかと振り返ることです。
様々なパターンを想定することで、自分がどのような人生を歩むことができるのか、そして、どのような人生であれば自分の可能性を開花できるのかがイメージできるようになるでしょう。
次に、時間配分を考えます。
いくら長寿化が現実的とはいえ、私達に与えられている時間は有限です。
その時間を何に割くのか、また何に時間を割きたいのかという優先順位をつけることが大切となってきます。
加えて、年齢による制限を設けないこともこれからは重要になってくると本著では述べています。
- あなたは学校を卒業する年齢、と聞かれたら何歳だと答えますか?
- 「定年」と聞くと何歳だと思いますか?
今だと大多数の人の答えが似通ってくると思います。
なぜなら、学校を卒業する年や退職をする年に関する根強いイメージが残っているからです。
しかしながら、長寿化が進み、働き方の多様性も求められるこれからの時代には、そのような年齢の決めつけを取り払い、必要な時に必要なことをする、というスタンスが重要になってくるでしょう。
豊かな人間関係が必需となる
また、豊かな人間関係が必要であることも触れられています。
今ではキャリア形成のための転職も定着してきましたし、会社という組織に属して働かない人も増えてきました。
ただ、決まった組織に属していない分、アイデンティティを持ちづらくなることも事実です。
「自分」というアイデンティティをしっかり持つことは心の安定にもつながり、豊かな人生を送るためのエネルギーにもなります。
そのため、家族や親しい友人など、心から信頼できる人間関係の構築をすることも大切になってくるのです。
また、信頼できる家族がいることで、キャリア転換などに際しても柔軟に対応できることも本著では示唆されています。
キャリア転換の際は一時的に収入が減ったりなくなったりすることもあるでしょう。
しかし、パートナーの収入があれば、そのような事態になっても生活できるという保障があるため、自分の可能性を開花させるためのキャリア選択に集中することができるのです。
第3部(6,7,8章)
最後の第3部では、個人の対策というよりは、社会全体を司る行政に焦点が当てられています。
社会の変化に対して個々人が努力することはもちろん重要ですが、同時に社会システムも変化をしていかなければ大きな解決とはならないことも事実です。
具体的には、下記の課題に対して、行政システムの変革が必要だと述べられています。
- ※働き方の柔軟性が高まるような制度作り(長く働けるような制度作り)
- ※入社の年齢区分をなくす制度
- ※高齢者の積極採用
- ※産後復帰の人への待遇改善
- ※介護への待遇改善
- ※新しい知識を習得するための、学びの支援
また、国の豊かさを測る指標として、現在はGDPが用いられています。
これは国の経済力を比較するためには有効な手段でしょう。
しかしながら、今後は経済力だけではなく、国民の心の豊かさを測る指標も取り入れていくべきであると本著では述べられています。
地域や家族など、コミュニティ内で安心して生活することができているかのように、お金では測れない価値にも注目していくべきということです。
もちろんお金では測れない分、簡単に比較することは難しいでしょう。
しかしながら、政府が目指すのは経済力ではなく、国民の「幸福度」にシフトしていくべきという考え方は常に念頭に置いておきたいポイントです。
さいごに
以上、LIFE SHIFT2のポイントをご紹介してきました。長寿化やテクノロジーの進化はもはや誰にも止めることのできない潮流です。
その流れと共に上手く対応しながら生きていくのか、従来のやり方を踏襲してしまい、取り残されてしまうのか、それは自分自身の対応力にかかっています。
これからの時代を生き抜くためのヒントを得たい人にはぜひ読んでいただきたい一冊です。