前回では、店舗経営におけるブランディングの目的は、口コミを発生させる事、つまり紹介のお客様を増やすと言うことにあるとお伝えしました。顧客がまた別の第三者に、そのお店の良さを伝えるという紹介という行為を誘発するために、顧客がついつい知人に紹介してしまいたくなるような方法を講じる必要があるということです。
口コミは自然発生的に起こると考えている経営者の方がほとんどですが、お店側から口コミは仕掛けることができます。そのポイントは3点あります。
商品・人物・ストーリー
この3つのポイントが揃う事によって、顧客は、ついついそのお店の情報を他人に話したくなります。商品とはもちろんお店の提供している商品やサービスの事です。この商品・サービスがいいのは、もうどこのお店も当たり前のレベルになってきました。つまり商品・サービスだけで他店と差別化することは実に難しい世の中になりました。
そこで2つめの人物。これはよく名物スタッフとか、名物店員などを想像しますが、小さいお店にとっては、スター従業員を育てる事はとても難しく、小規模・零細規模の店舗では、紛れも無く経営者であるあなた自身の事になります。小さいお店では、経営者自身が広告塔になる必要があります。
3つめは、一番重要な物語(ストーリー)です。今号では、この物語(ストーリー)の部分を詳しくお伝えしていきたいと思います。
ブランディングには、最も大事な物語(ストーリー)
それでは具体的に、この店舗における物語(ストーリー)とは、どういったものがあるかという事についてお伝えしていきたいと思います。
私の自宅の近くには、こんなラーメン屋さんがあります。地元では有名な話です。そのラーメン屋さんは、メニューが「おいしいラーメン」しかありません。このラーメン屋さんの売りは、飲んだら病みつきになってしまうあっさりスープなのですが、本当に一口飲むと、もう一口、もう一口と夢中になって飲んでしまうくらいとても美味しいスープなのです。
そこの店主の親父さんは変わっていて、ほとんど何もしゃべってくれません。その偏屈な性格とおいしいラーメン、そしてそのスープは店主の自宅で作られ、お店に輸送される際には、そのスープの蓋に南京錠を付けるほどでした。
一時期は、現金輸送車でスープを運んでいたというような逸話まで生まれるほど評判になりました。そんなラーメン屋さんに一度、足を運んで見ませんか?と言われると少し行ってみたいと思いませんか?
ストーリーやウンチクは、人に言いたくなる
おいしいラーメン(商品)と、寡黙な親父(人物)と、現金輸送車(物語)。この3つが揃うとついつい人は、他人に話したくなります。世の中の口コミされるお店や商品の多くは、時代に関係なく、この法則が当てはまります。
今はブランドアイテムで有名なココ・シャネル、当時は帽子のデザイナーとして活躍していましたが、当時、典型的な社交ファッションが女性の服装の主流だったなか、もっと活動的な女性像を未来に描くために、初めて女性が着るパンツスーツをデザインしました。そのパンツスーツを颯爽と着て、仕事を活動的にこなす現代の女性像を確立したのです。
京都に本社のあるMKタクシーの社長は、同じ人を運ぶ仕事をしているのに、飛行機のパイロットとタクシーの運転手とでは何故こんなに格差があるのか?タクシーの運転手を必ずパイロット並みに尊敬される職種にしてやる!という決意の元、タクシー会社を経営しています。その接客サービスは他のタクシーの運転手とは比べ物にならず、飛ぶ鳥を落とす勢いで車両数を増やしています。
他にも事例はまだまだあります。売れない芸人が、パートナーのお母さんから受け継いだ焼肉屋を経営して大繁盛、芸人としても突然売れ出して全国区に。
豆腐を作る前に早朝、全身に水を浴びてお清めをしてから作業場に入る豆腐屋さん。
ワンマンで傲慢なため、幹部やスタッフ全員から辞表を出され翌日から経営者一人でお店に立ち、改心してそれからは、一度もスタッフが辞めたことのなくお店がスタッフの数だけ増え続けている美容室。
欧米で有名なホテル・レストランの一人のボーイの接客に感動し、日本にもそれと同じ接客品質のレストランを実現したいと、バイク輸出業者からレストランオーナーに転進した経営者。
このように評判となっている商品やサービスは、必ず商品・人物・ストーリーが揃っているのです。しかしここで聞こえてきそうな声は、「うちには、そんな物語は無いよ」というもの。いえいえ、どんなお店にも必ず物語(ストーリー)があるのです。まだ気づいていない魅力が必ず、あなたのお店にはあるのです。
ストーリーを明確にするために必要なステップ
お店のストーリーは、ほとんどの場合、経営者の開業当初の想い、理念などの理想と、コンプレックスや課題などの現実を明確にすることによって必ず見つかります。どんなお店にも物語(ストーリー)はあります。
もし無ければ、今はまだ明確にできていないだけだということです。次回では具体的に私のクライアントの事例も交えて、物語(ストーリー)を一緒に作ってみましょう。
今回のポイント
- 物語(ストーリー)が、ブランドには最も大事である
- 物語(ストーリー)は、ついつい人に話したくなる
- 物語(ストーリー)は、どんなお店にも必ずある