あなたの周りの競合他社は、値下げを断行していますか?もしそうだとしたら、あなたのお店にとってはチャンスです。これからその理由について説明させて頂きます。値下げをするという事は、差別化するにあたり最も簡単な手法ですが、戦略的考え方と体力が必要です。
値下げの弊害
価格の値下げによる売上アップは、基本的には、体力のある企業の戦略です。彼らは、販促費用としての値引きや、スケールメリットを活かして仕組みや仕入れ先、仕入れ値を改革して、提供価格を徹底的に落としてきます。
小資本しか持たない中小・零細企業が、この価格競争に巻き込まれた場合、薄利多売傾向となってしまうため、どうしても利益が残らず、売上を上げていても、お金が最終的に残らないといった状況になってしまいます。
さらに価格を下げるということは比較的、いつでもできますが、価格を元に戻すという事は非常に難しい。
価格を下げて、客単価が変わってしまった場合、客層も変わりますから、一度逃げてしまった本来のお客様が、戻ってくることもほぼあり得ない。
ですので、地域の近くの競合店が値引きしたということは、価格競争に巻き込まれてしまっているということなので、経営が圧迫されていくのは、時間の問題です。
不況時に値下げするということ
そもそも、不況時における価格の値下げというのは、いわゆる他社との差別化のために行います。
でも結局は互いの値引き合戦(ダンピング)が始まり、結局は体力(資本力)のある会社が生き残るという構図になってしまいます。
値決めこそ、経営の本質
その値決めの中で価格を安くする、もしくは値上げを決定するということは、決して他社競合との差別化のために行っていけません。
経営の戦略上、価格改革を必要とする場合、例えば品質を向上させるために原資が必要であったり、価格ラインを複数設けることによって、消費意欲を引き出すために提供価格を変えたりなど、計画に基づいて価格を変えるということは必要だと思います。
そもそも、供給過多のこの時代に、他社との差別化を行っても、対した利益が生まれないということを自覚する必要があります。
差別化は時代遅れ
少し前までのマーケティングの世界では、よく差別化という言葉と耳にしましたが、もうこれは、時代遅れと言えるかも知れません。
差別化をして、売上と利益が上がる時代は終わりました。例えば、市販されている水を想像してみてください。あなたが、この水を販売している社長だったとします。
この水をどうやって販売していくか?
あなたは頭を悩ませると思います。水で差別化?!硬水と軟水などの差しか水はありません。水というおそらく最大のコモディティ商品(差異の無い商品)をどうやって差別化して販売すればいいのでしょうか?!
ここでは、差別化という概念自体を捨てなければなりません。
今のマーケティングに最も必要な考え方は、ストーリー性をいかに訴求するか?という点にあると思います。
「Volvic」という水は、この手法を用いて、売上を1.4倍引き上げました。「Volvic」のペットボトルには、このような記載があります。
「ボルヴィックのお買い上げ1リットルごとに、アフリカに清潔で安全な水が10リットル生まれます」
この“1L for 10L”(ワンリッター フォー テンリッター)の活動は、去年8月31日に終了しました。その10年間の成果はいかのようなものです。
50億リッターの水を支援することに成功した成果内容(1L for 10L)
当時、私は、この話を聞いて、コンビニエンスストアに並んでいる水を買う時、必ずこの「Volvic」を手に取るようになりました。
この他にも、いわゆる口コミや紹介に繋がるような、ストーリー性をうまく活用して、価格競争に陥ることなく、この不況の中、うまく経営を続けている会社が多々あります。
「Volvic」はいま、有名店のシェフとのコラボで新たなストーリーを作りだそうとしています。
「Volvic」×シェフズボイス
価格競争からの脱出のために
余談ですが、価格競争に陥らないようにするもうひとつの方法は、まったく競合の無い、新しいカテゴリを創出するという方法です。
「キッザニア」というテーマパークを御存知でしょうか?「キッザニア」は、職業体験型テーマパークとして子供たちが様々な職業を疑似体験できる、今大人気のテーマパークです。
キッザニア東京は今年で10周年、この事業モデルは世界24箇所に広がっています。
この「キッザニア」は、遊園地というカテゴリには入りません。遊園地に行きたいのに、例えば「今日は、ディズニーランドとキッザニアとどっちに行こうか?」と悩む親御さんはいません。
遊園地に行きたいのであれば、ディズニーランド、職業体験型テーマパークに行きたいのであれば「キッザニア」と、そのカテゴリに競合が存在しないのです。
差別化ではなく、新しいカテゴリの創出。これが、正しい戦略と言えるでしょう。とはいえ、中小企業零細にとって、この新しいカテゴリを創造することは、至難の業ですね。
顧客が感じる価値の公式
そこで、小さな会社にお勧めするのは最初にお伝えした、ストーリー性で勝負するという方法です。
ここにある公式を明示したいと思います。
価値(顧客が感じる価値)=worth(富田の解釈では、ストーリー性などの言葉)/price
顧客により多くの価値(満足感)を感じてもらうためには、価格を落とすか、言葉(ストーリー性)を明確に伝えていくか?この二つしかないということです。
そしてこの言葉(ストーリー性)の無い会社が、価格を下げて、価格競争に巻き込まれないといけなくなってしまうということが、この公式でよくわかると思います。
もし、値下げしないといけない・・・という事が頭に想い浮かんだら、ぜひこの公式を思い出して、もう一度、よく考え直してみてください。
それでは、このストーリー性を打ち出すメリットと、その打ち出し方について説明していきたいと思います。
ストーリー性を訴求する事例
私のクライアントで、「楽しく、楽しんで、楽しませて、気取らないおもろい空間」をコンセプトにした焼き鳥居酒屋があります。そこの店主は、20代前半で実は引きこもりになり、うつ状態。そこから脱出するきっかけは、近所の焼き鳥居酒屋の店長でした。
ずっと話を聞いてもらううちに、少しずつ癒されもう一度社会復帰を決意したそうです。そして居酒屋で修行を始め5年後、独立し、現在は1年に1店舗、増店されています。
そのときの恩返しのために、少しでも引きこもりやウツ、強いては自殺まで悩んで苦しんでいる若者の力になりたい、少しでも多くの若者を救いたい!という志のもと経営されています。
こういった、想いに賛同してくれる、スタッフを始め、お客さんは、隣の焼き鳥屋がいくらこのお店よりも安く商品を提供していても、きっとこのお店から離れたりはしないでしょう。
さらに、こういったお店は、口コミや紹介が発生します。ついつい家族や友人に話したくなるのです。そうなれば、価格を下げる必要も無いばかりか、販促費用をかけずに、集客ができるので、売上も利益率も非常に良い状態となるのです。
理念起点のストーリー性
他にも、このようなお店があります。最近、経営のお手伝いをさせて頂いている、新潟のとある美容室では、大手工場の撤退を皮切りに、付近工場の従業員の方がいなくなり、客数が落ちてしまって、やむなくサービスの値下げをして、なんとか経営を維持していました。
ただしその女性オーナーを始め、従業員のモチベーションも落ちてしまい、満足の行くサービスも提供できなくなっていました。
「お客様にキレイを提供して、イキイキと生きてほしい」
という理念を持っているこの美容室では、まず、その理念の通りに満足のいくサービスを提供するために、プライスをもとに戻す、さらに値上げするということを目標に置きます。
次に、美容師の比較的、暇な時間帯に、アロマと美容の教室を開きました。対象は、もちろんお客様、講師は、オーナーです。この時点でまず、美容師から先生という風にお客様から見られるようになります。
そして美容や、髪のケアの方法などについて、ブログや、メールマガジンや、毎月発行するお店の新聞を通じて、情報発信を頻繁に心がけるようにしました。
そうしていくうちに、あのお店には、顧客の事をここまで考えてくれている先生がいる。と言った形で口コミが広がり、少々の値上げも関係なく売上がV字回復し、今も、自信を持って提供しているサービスに見合う対価をお客様から頂いています。
さいごに
この2社に共通していえることは、
まず何のために経営をしているのか?
理念を明確にして、その理念に忠実にサービスを提供し、そしてそこに発生するストーリーや想いを、顧客に伝えつづけることによって、他社との比較ではなく、お客様がその会社やお店のファンとなり結果、価格競争をする必要も無く、口コミで集客ができるようになるのです。
このように、値下げする前にまず、この公式、
価値(顧客が感じる価値)=
worth(富田の解釈では、ストーリー性などの言葉)/price
を想いだして、顧客が少々の価格の差を気にしないほどのストーリー性を発揮して、不景気の中でも、経営をプラスの方向へと転換することが、経営者の役割ではないでしょうか?
今日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。